「金が過去最高値更新」「ゴールドETFに資金流入」といったニュースを見ると、
- 今から買ってもまだ上がるの?
- そもそも金って“原価”的にはいくらくらいが妥当なの?
- 資源は枯渇しないの?
とモヤモヤしますよね。
この記事では、40代サラリーマンの家計・資産形成目線で、
- 金価格の「物理的な下値」をつくる採掘コスト・リサイクルコスト
- 長期的に金の原価は上がりやすい3つの理由
- それでも現実のマーケット価格がコストどおりに動かない理由
- 40代サラリーマン家計で、金とどう付き合うかの考え方
を整理していきます。
いま、金価格はどんな状況にあるのか?ざっくり整理
細かいチャートは省きますが、ざっくりいうと、
- 2000年代:ITバブル崩壊やリーマンショックで、金は「安全資産」として評価され上昇
- 2010年代前半:1,900ドル/オンス付近でピークをつけた後、調整
- 2020年代:コロナ後の金融緩和、インフレ、地政学リスク(戦争・米中対立など)で再び上昇
- 2024〜2025年:金価格はドルベースで過去最高水準ゾーンに滞在

図1:LBMA金価格の年平均推移。2023〜2024年にかけて高値圏へのシフトが鮮明に。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のレポートによると、2024年の金の総供給量は4,975トンとデータ開始以来の最高水準でした(鉱山生産+リサイクル)。
(出所:ゴールド・デマンド・トレンド2024年通年)
つまり今は、
- 価格:歴史的な高値圏
- 需給:投資需要と中央銀行の買いが強く、供給もフル稼働
という「みんな金が欲しいフェーズ」にいます。
「物理的な価格」って何?採掘コストとリサイクルコスト
ここでいう「物理的な価格」は、ざっくりいうと、
- 金鉱山が1オンスの金を掘り出して精錬し、市場に出すまでにかかるコスト
- 中古ジュエリーや電子機器などから金を回収して、純金として戻すコスト
の合計イメージです。
もちろん会社や鉱山ごとに違いますが、金鉱山ビジネスではよく
- キャッシュコスト:採掘〜精錬までの狭い意味でのコスト
- AISC(All-in Sustaining Cost:総維持コスト):設備維持や開発費も含めた実質コスト
といった指標が使われます。
ポイントは、
- 金価格がAISCを長期で下回る → 多くの鉱山が赤字 → 採掘縮小・停止 → 供給が減る
- 逆にAISCを大きく上回る → 新規開発や増産にGOが出やすい
という構造になっているため、世界の平均的なAISCは、
「このラインを長期で割ると、鉱山が成り立たない“下値の目安”」
になりやすいということです。
金は本当に枯渇する?採掘量と埋蔵量のざっくり感覚
世界の鉱山生産量と埋蔵量
アメリカ地質調査所(USGS)の「Mineral Commodity Summaries 2025」によると、
- 世界の金の鉱山生産量:2024年は約3,300トン(前年3,250トン)
と推計されています。
(出所:Mineral Commodity Summaries 2025(金))
一方、「経済的に採掘可能」とされる確認埋蔵量は数万トン規模とされており、単純に割り算すると
- 今のペースで掘り続ければ、数十年スケールで掘り尽くすペース
というイメージです。
でも「金そのもの」がなくなるわけではない理由
重要なのは、
- これまで人類が地上に掘り出した金は20万トン超と推計される
- 金は錆びず・燃えず、ほぼ永遠にリサイクル可能
という事実です。
つまり、
- 「安く・効率よく掘れる鉱山」はいつか枯渇に近づく
- しかし「金という金属そのもの」は、リサイクルでぐるぐる回り続ける
ので、「世界から金が物理的に消える」という意味での枯渇は非常に起こりにくいと考えられます。
長期的に、金の「原価ベースの下値」は上がりやすい3つの理由
では、採掘コスト・リサイクルコストは今後どうなりそうか?
長期目線では、じわじわ“上がりやすい”方向だと考えられます。
① 高品位な鉱山が減っている
- 品位の高い“おいしい鉱山”はすでに開発済みが多い
- これからは、品位の低い鉱石を大量に掘る必要がある
- 同じ1オンスを取り出すのに、より多くの土砂・エネルギーが必要
→ 1オンスあたりの採掘コストは、長期的には上昇圧力がかかりやすい。
② 環境・安全規制の強化
- 廃水処理や尾鉱ダムの安全対策など、環境配慮コストが年々重くなっている
- CO₂排出削減や労働安全基準の強化も進行中
→ 「昔より安く掘れるようになる」というより、「環境対応コストが上乗せされる時代」です。
③ 人件費とエネルギー価格の上昇
- 金鉱山は重機・燃料・電力に大きく依存するビジネス
- 世界的な人件費上昇とエネルギー価格の変動に直撃を受ける
→ 長期的に見れば、やはり「原価ライン」は下がりにくい構造です。
リサイクルコストも「もう一つの下値」をつくる

図2:世界の金供給は、鉱山生産に加えてリサイクルが約3割を占める“循環型”になっている。
金の供給は、
- 鉱山生産(新しく掘る金)
- リサイクル(金地金・ジュエリー・電子部品からの回収)
の2本立てです。
WGCのデータを見ると、2024年も鉱山生産とリサイクルの両方が増加し、総供給4,975トンの高水準となっています。
ここで重要なのは、
- 金価格がある程度高くないと、スクラップを集めて精錬する採算が合わない
- 逆に金価格が上がると、押し入れのジュエリーや休眠していた資産が市場に出てくる
ということです。
つまりリサイクルにも、
「この価格ならビジネスとして動ける」という“最低ライン”
があり、これも長期の下値の一つの目安になります。
とはいえ、実際の金価格は「原価どおり」には動かない
ここまで読んでいただくと、
「原価が上がるなら、金は長期的に右肩上がりでは?」
と感じるかもしれませんが、現実のマーケットはそんなに素直ではありません。
短〜中期の価格は「マクロ要因」が主役

図3:金の「原価ライン」は緩やかに切り上がるが、市場価格はマクロ要因で原価を大きく振り切って上下する。
金価格を大きく振り回すのは、
- インフレ率・インフレ期待:物価不安 → 金が買われやすい
- 実質金利(名目金利−インフレ率):実質金利が低い/マイナス → 無利息の金が相対的に魅力
- 為替(特にドル):ドル安 → ドル建て金価格は上がりやすい
- 地政学リスク:戦争・政情不安 → 「有事の金」で買われやすい
- 投資マネー:ETFや先物での売買が短期の値動きを増幅
といった「金融的な要因」です。
このため、
- 危機のとき:コストの何倍もの価格まで一気に高騰する
- 安心ムード&高金利のとき:コスト近辺〜やや上くらいまで下落する
という極端な動きも普通に起きます。
「原価が上がる=必ず儲かる」ではない
ここが個人投資家がハマりやすい落とし穴で、
- 原価はじわじわ上がる → 下値はゆっくり切り上がる
- しかし、チャートのアップダウンはマクロ要因次第で大きく乱高下する
という構造なので、
短期的には「原価」と関係なく暴落することもある
点には注意が必要です。
40代サラリーマン家計で、金とどう付き合うか
では、家計と資産形成の視点から、金とはどう付き合うのが現実的でしょうか。
① 金は「保険枠」として考える
金は、
- 企業の成長に乗る「投資」ではなく
- 通貨や金融システムの不安に備える「保険」の性格が強い
資産全体の中で、
- 株・投資信託・持株会など:成長を取りに行く部分
- 現金・預金:生活防衛資金
- 金:インフレ・通貨不安・有事に備える保険枠
という役割分担で考えると、位置づけがクリアになります。
② 金だけに集中させない
どれだけ原価が上がりやすい構造とはいえ、
- 配当も利息も出ない
- マクロ次第で10年単位の“お休み期間”もあり得る
という性質を考えると、
ポートフォリオの一部に組み込む程度にとどめる
のが現実的です(具体的な比率は各家庭のリスク許容度次第)。
③ 投資方法ごとの特徴を押さえる
金への投資方法はざっくり以下の3パターンです。
- 現物(金地金・コイン・純金積立)
→ 管理コストやスプレッドを確認。長期保有向き。 - 金ETF
→ 証券口座で売買しやすく、手数料も比較的低い。 - 金鉱株・金鉱山ファンド
→ 金価格+企業業績の影響を受け、ボラティリティ(値動き)は大きめ。
「原価ベースの話」を理解したうえで、
どの程度の金額をどの手段で持つか、家計全体のバランスから逆算するのがポイントです。
この記事のまとめ
- 金の「物理的な価格」は、採掘コスト+リサイクルコストでざっくり決まる
- 高品位鉱山の減少・環境規制・人件費やエネルギーコストの上昇で、
長期的にはこの「原価ライン」はじわじわ上がりやすい構造 - 一方で、実際の金価格はインフレ・金利・地政学リスク・投資マネーなど
マクロ要因で大きく上下し、「原価どおり」には動かない - 40代サラリーマン家計では、
金は「保険枠」としてポートフォリオの一部に組み込むイメージが現実的
「金はこれからも上がるのか?」という問いに
100%の答えを出すことは誰にもできませんが、
・原価ベースで見た“物理的な下値”はじわじわ上がりやすい
・その上でマーケットはマクロ要因で乱高下する
という構造を知っておくだけでも、ニュースの受け取り方や、
自分のポートフォリオへの組み入れ方はかなり変わってくるはずです。
※本記事は特定の金融商品・銘柄の売買を推奨するものではありません。
投資判断は必ずご自身の責任と判断で行ってください。


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